書籍:病気じゃないからほっといて(10周年記念版)

「病気じゃないからほっといて」ザビア・アマダー著
八重樫穂高・藤井康男 訳 星和書店 2016
 この本はもっと読まれていいと思うが、元々が洋書のためかAmazonの書評もあまりかんばしくない。

 「病識は、半側失認などと同様に脳の機能障害である」「病識が本当の意味で回復する(=自分が病気であると気付く)ことはほとんどない」ことを前提に、なお「いかにして治療者と患者が一致点を見出し、治療に協力していく関係を築けるか」を示した本である。
 いまだもって謎なことに、医療保護入院者の定期病状報告書には「患者本人の病識や治療への意欲を得るための取り組みについて」という欄がある。
 「精神病圏の人が病識を得るための取り組みを書け」と求めるのは、「色覚異常の人に色の見分け方をこんこんと説明しろ」というレベルで不毛なことに、そろそろ行政の人は気付いて欲しいのだが…。
(以下、一部〈あなたの言い方〉については改変している部位あり)

LEAPとは:

L: Listen 傾聴する
E: Empathize 共感する
A: Agree 一致出来ることを探す
P: Partner 協力する

Listen 傾聴

まず、治療への同意を築く
  • 精神的な病気になったことをどう思っているか
  • 薬に関する体験とそれについての構え
  • なにができて、なにができないと思い込んでいるか
  • 将来への望みと期待
理解して返す傾聴をする
 その人がなにを語っているかを理解し、あなたの理解をそのまま伝え返す
 「理解して返す」傾聴のための7つのガイドライン
  1. 安心して話せるようにする
  2. あなた自身の恐れを知る
  3. あなたの課題の押しつけをやめる
    (× 反応的傾聴)
  4. そのままにしておく
  5. あなたが聞いたことを尊重する
  6. 一緒に取り組める問題を見つける
  7. 中心課題を書き出す
私たちの恐怖:
批判を交えずに傾聴して返すと、その人の妄想観念を強化しないか?
 →2つのツール
 (遅らせツール)「できるだけあとで意見を言う」
  意見が食い違う可能性のあるテーマ
    ●妄想の内容が真実かどうか
    ●薬を飲みたくない
    ●明日退院したい…など
   1.約束=その質問には必ず答えると約束する
   2.変更=話題を変える許可を求めた上で、変更する
 (和らげツール)「あなたの意見を言う際の3つのA
  Apologize まず謝る
   =これまで築き上げてきた信頼を傷つけることになる、
    自分はこれら全てを理解しているからこそ「謝る」
    私が言うことによって生じる、その人の気持ちに対して「謝る」
  Acknowledge 完璧でないことを認める
   =私自身についても絶対に誤りがないわけではない
    実際間違っている可能性があること
  Agree 意見を認め合う
   =私が、その人の意見に同意するわけではない
    「私が同意していない」ことをその人に分かってもらう

Empathize 共感

優先的に共感を示すべき事項(社会や治療から遠ざかる原因)
  • 自分では「罹っていない」と思う病気
  • 必要ではないと確信していた薬
  • 服薬を強制される事への怒り
  • 治療への恐れ
  • 妄想に関連した感情
特に、次に説明する気持ちについては是非とも共感する。
    • フラストレーション
      • 周りから薬を服用するよう求められる
      • 達成出来ないでいる個人的目標
    • 恐れ
      • 薬が怖い
      • 偏見を受けることが怖い
      • 失敗するのが怖い
    • 不快感
      • 薬に関連した
      • 体重増加やだるさがある
      • 動きが鈍い
      • 発想がわかない
      • こわばりがある
    • 要望
      • 仕事したい
      • 結婚したい
      • 子供を持ちたい
      • 復学したい
      • 再入院しないでいたい
返答に困る質問に対してどうするか?
 Q1.「私に賛成してくれるのですか?」
  ●遅らせツールを使う
   =時間をかけるほど、相手に「傾聴してもらえる経験」を与えられる
    私の意見を聞くのに、その人に責任がある形を取れる
  〈その質問には必ず答えます。でも、よければこのことについてもう少しあなたの話を聞かせていただきたいのです。〉
  〈私の意見よりも、あなたの考えの方が今はずっと大切だと思います。〉
 Q2.「先生(医者)はあなたでしょう。あなたがよいと言えば済むはずだ!」
  〈ここではそうかも知れません。でも、私がいなくなったら(退院したら)あなたがどうするかを決めるのは、私ではないでしょう。だから、あなたの意見の方が、ずっと大切なんです〉
 《重要》自分が適切なタイミングだと感じた時点で、自分の意見を言わなくてはならない。
 ●和らげツールを忘れずに=Apologize, Acknowredge, Agree

Agree 一致

妄想内容に「同意」することはなくても、一致点を探ることはできる。
  1. 体験を分かち合う
    〈あなたの立場でしたら、私も同じように感じたでしょう〉
  2. その人が自覚している問題や症状だけについて話し合う
    客観的に「不眠」「被害妄想」と考えられることがあったとしても、
    その言葉を話し合いで使う必要は全くない。
  3. その人が感じている治療の良い点と悪い点をまとめる
    理屈に合っているかどうかは別の問題。
  4. 誤解があったら修正する
    たとえば「抗精神病薬には依存性がある」「親の育て方でこうなった」など
  5. その人が感じている良い点をよく聞いて伝え返し、強調する
    〈今聞いたところだと、薬を飲むとよく眠れるし、ご家族も安心して話せるということだね〉
  6. 意見を認め合う
    意見が食い違う点が表面化した時は、いつでもそうする

Partner 協力

Xavierの兄、Henryの場合(統合失調感情障害)
 一致できなかったこと
  × Henryの目標、強い願い=働くこと ← Xavierの考えでは、難しい
  × 事実、仕事は1週間程度でいずれも長続きしなかった
 Henryの恐れ
  ▼ 薬が自分を助けることを認めると、自分が精神的な病気だと認めてしまう
 Henryが本当に分かっていたかどうか、疑わしいこと
  △ 薬には「幻覚に効果があるし、被害妄想も減る」
  △ 自分には「統合失調感情障害」がある
 一致したこと
  ○ 再入院をぜひ避けたい
    ○ 薬をのんでいれば、入院しないでいられる
  △ デイケアに参加して、週5ドルの小遣いを稼ぐこと
    ▼Xavierはデイケアを続ける役に立ちたいと思ったが、Henryのプライドを傷つけた
    ○ デイケアに参加する代わりにHenryは小切手を受け取りケースワーカーの前で服薬することにした
  ○ その後、LAIを受け入れることができた
 ●達成可能な目標があるに越したことはないが、それが難しければこだわることはない
Mattの場合(妄想型統合失調症)
 Mattの理解
  ○ 自分が薬を飲まないと、両親がひどく怯える
  ○ それは、自分が悪かった
 両親のAcknowledge
  △ Mattがなぜ薬を飲まないといけないかについては、
    両親が間違っているかもしれない
 一致したこと
  ○ 両親と同じく、Mattも入院は避けたい
    → 退院後、実際1年間入院しないで済んだ
  ○ 家庭の平和を心底望んでいる
Doloresの場合(双極性障害)
 一致したこと
  ○ 仕事に就く
    × 実際、退院後図書館で仕事が見つかったがすぐにくびにされてしまった
 一致しなかったこと
  × 薬を飲み続ける必要がある
    △ 薬の良い点と悪い点のリストを、入院中に前もって書き出してあった
    ▽ 3ヶ月後に再入院したが、薬についてもう一度話し合うことが出来た
 再入院で一致したこと
  ○ 薬の服用をやめてしまうと、独り言が多くなる
  ○ 独り言をいうと、周りの人が変に思う
  ○ 薬の服用は、仕事に役に立つ
  ◎ Doloresは、依然として自分が病気でないと思っているが薬の服用に同意した
Vickyの場合(双極性障害)
 Vickyと、夫Scottのしたこと
  ○ 日記に記録する(気分、話し方、考え方)
  ○ Vickyは、「誇大的な考え」「強い幸福感」「強引な話し方」が症状だと認めている
 Kohut医師とVickyが一致したこと
  ○ Lithiumの量を減らしてみる
 2週間後、起きた結果(Scottが観察したこと)
  × 睡眠時間の減少にもかかわらず疲労感がない
  × 「調子が上がり始めている」というVickyの自覚
  × 普段より話が多い
  ○ Vickyも、Scottの観察結果に同意する
 さらに2週間後、起きたこと
  ○ Vicky自身が「へとへと」になりそうな感じを認める
  ▽ 自分をコントロールで着なくなるのではないかという不安の表明
  ◎ 薬(Lithium)の量を元に戻して欲しいと申し出る
 周りの人の反応
  ○ 「そらみたことか」と皮肉を言う者はいない
  ◎ Kohut医師も、夫ScottもVickyを理解して尊重しているという感覚
  ◎ もしVickyが薬をやめてみたいといえば、両者も援助してくれるという安心
    ○ 実際は、10年間で1回だけトライしたが、本人の自覚により元に戻す
  ◎ 「薬を減らしたいと思えば、医師と夫がそれに協力する」という合意は今なお継続している

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